カルロス・ゴーンのルーツを辿る。賄賂が日常茶飯事なレバノンという国
中東のモザイク国家、レバノンの今②
大きく異なる特性を持った集団が、肩を並べて暮らすモザイク模様の、レバノン社会。そのモザイクの単位は、宗教だけに留まらない。貧富の差が激しいレバノンでは、出身家庭の収入や社会的地位により、生まれた時点で人生が決まってしまう、という悲観的な声もよく聞かれる。現在のレバノン社会、特にベイルートのように異教徒同士が肩を並べて暮らす街では、宗教が直接社会を大きく分断することは無くとも、貧富の格差、更には社会的地位(ソーシャル・クラス)が、物事の成否を左右する事もよくあるという。
■そこら中で見られるバクシーシ
汚職が日常茶飯事のこの国では、官民問わず、賄賂(バクシーシ)が縦横無尽に飛び交い、先進国で言う手数料や税金のような感覚で、バクシーシが様々なところで見られる。例えば、ある大企業がベイルート郊外にオフィスビルを建設しようとすると、様々な許可証が必要になる。バクシーシ無しでこのプロセスを正式に完了しようとすると、最低でも3ヶ月はかかる。しかし、正しい人に正しい額のバクシーシを払えば、1週間で全ての手続きが完了する。このような話は、政府関係者だけでなく、民間人同士のやりとりでも日常的に行われている。
支払われるバクシーシは正式な料金ではなく、当人たちの“記憶”以外には何も“記録”が残らない。このような形で大規模プロジェクトが進められて行く現実は、レバノン社会の常識として知られる。
それでは、あるプロジェクトに必要なバクシーシの額は幾ら程度で、どの人が正しいバクシーシの払い先なのか? その答えは、「社会的上層部」にいる人にしか分からない。要するに、このグループに属する人でなければ、それなりの規模のプロジェクトの通常の形での実行は、事実上不可能という不文律がある。
- 1
- 2